冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あの…ここは…」

 不安そうな茶色の目だった。

 ようやく自分を取り戻し始めたのか、落ち着かない素振りが生まれ出す。

 心配という色の眉で、じっとカイトを見つめるのだ。

 んな顔すんな!

 たかが料亭に、女一人連れてきたくらいで吹き飛ぶ懐ではない。

 それは、メイだって知っているはずだし、もっと知ってもいいくらいだった。
 もっと知らしめるために、連れて来たと言っても過言ではないのだ。

「別に大したとこじゃねー」

 カイトはうそぶいた。

 こんな不安な目をさせたままのメイが、見たいワケではなかったのだ。

 勝手に連れて来ておきながら、もうちょっといつもの顔をしろ、とカイトは至極乱暴なことを思うのだった。

「でも…」

 彼のセリフも気持ちも、全然伝わっていないようである。
 それがまた、腹立たしく思えた。

「黙ってろ」

 だから―― そんな言葉を言ってしまった。

 これ以上、胸を騒がされたくなかったのだ。

 彼が選んで、彼が連れてきた店なのだ。

 黙って出てくる料理を食え、と思ったのである。

 そうしたら。

 メイは、本当に黙り込んでしまった。

 不安そうな目の色だけは隠しきれずに、あちこちを向いては、最終的にカイトに帰ってくる。

 苦い沈黙になってしまった。

 いつもの彼女の作る食卓では、こんな苦い沈黙にはならない。

 確かに静かだけれども、もっと違う空気だった。

 メイは、くるくるとあちこちを駆け回って。

 カイトの目の前に、温かい湯気の上がる料理を出す。
 彼の方のセッティングが終わると、慌てたように自分の席に戻るのだ。

 それが、食事開始の合図。

 いつの間にか。

 そんな流れが、カイトの中にくっきりと残っていた。
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