冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□89
 カイトは車に乗り込んだ。

 彼は凄く怒っていた。

 信じられない事態が起きたのだ。

 料亭である。

 最高級のもてなしをする代名詞のようなところだ。

 なのに。

 カイトは、やはりその事実が、とてつもなく信じられなかった。

 マズかったのである。

 いや、正確に言うと、ちっともウマイなんて感じなかった。

 ただ口の中に押し込んできただけだった。

 前に来た時は、こんなことを感じたりしなかった。

 マズイという記憶があるなら、絶対に彼女を連れてきたりしない。

 しかし、今日来てはっきりと分かった。

 マズイ。

 だから、物凄い不機嫌になってしまったのである。

 助手席のメイに。

 カイトは、ちらりと横目で見た。

 黙って座っている彼女は、向こう側の窓の外を見ていた。

 表情は分からない。

 そう、彼女においしいものを食べさせる予定だったのに、結果がこのザマだ。
 高いばかりで、ぜんぜんおいしくないものを食べさせてしまったのだ。

 クソッ。

 裏目に出たどころの話ではない。

 何の言葉もかけられずに、車をバンバン走らせるだけだった。

 自分の株が、これでズドンと下がってしまったに違いない。

 一緒にメイの信用も失ってしまったような感触がして、彼はひどく悔しい思いをした。

 暗い車内。

 出かける時はまだ明るかったが、もう真っ暗どころではなかった。

 車のライトとネオンと、時々明かりの中に浮き上がる人の影だけになるのだ。

 しかし、車内が暗いのは、明るさのせいだけではなかった。

 行きの車の中よりも、もっと暗い―― いや、重い空気。
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