冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「カイト…」

 もう待てませんよ。

 彼の不興を買おうが何だろうが、職務を遂行する律儀な彼の相棒は、ついに階段を登ってきた。

 ドライバーを持ったままの彼は、フタが開く気配のない鳩時計を睨むしか出来ないのである。

 クソッ!

 分解するには、いまは本当に時間がなかった。

 がっと、カイトは前に向き直り、階段を駆け下り始めた。

 すぐにシュウと出会うことが出来る。

 今日は、一段と忌々しい顔に見えた。

「何をしていたんで……」

 階段の途中で言葉を続けようとする彼を無視して、横をすれ違うように降りていく。

 シュウも続いて降り始めた。

「珍しいですね、そんなに綺麗にネクタイを締めているなんて」

 玄関口のところでそう言われて、ムッとした。

 見んじゃねぇ!

 不可能なことを内心で怒鳴りながら、彼は玄関を強く開けた。

 室内よりも、もっと冷たい空気が頬を叩く。

 このネクタイの結び目を、誰にも見られたくなかった。

 そんなことは、不可能だ。

 ネクタイの結び目は、人に見せるためにある。
 それ以外では、ただ無駄な長いヒモなのだ。

 けれど。

 見られずに済む方法があった。

 シュウが後ろにいるうちに――カイトは、ネクタイを解いてしまった。


 指が。


 少し震えた。
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