三度目のキスをしたらサヨナラ
「それを蒼太から聞かされたのが、ちょうど1ヶ月前」


場所は私と多華子が住むマンション。

そこで、蒼太は泣きながら土下座をして、私に何度も何度も詫びを言い続けた。

『頼むから、お前は幸せになってくれ』

隣で一緒に聞いていた多華子も蒼太に負けずに泣き叫びながら、蒼太を責め、その背中を殴り続けた。

私は、そんな2人に取り残されて、ただ呆然と立っていることしかできなかった。

まるで人事のように、佐和子との結婚を決めた蒼太のことを『男らしい』なんて思いさえした。


──そんな私が、すべてを失ったことに気づいて涙を流したのは、その日の夜遅く、シャワーを浴びて自分の部屋に戻ったあとだった。



「それで、私の初恋は、オシマイ」

私がおどけてそう言っても、ソウは前を向いたまま、相づちのひとつも打たずに黙っていた。


「ウーさんが『最後の挨拶』って言ってたでしょ? 蒼太も大学をやめて、佐和子と一緒に実家の旅館を継ぐの」

ソウの沈黙は続いた。

「それに、聞いてくれる? 結婚式は来月……私の誕生日なのよ。しかも私、式に招待されてるんだから……。一体、どんな顔して参列しろって言うのよ、ねぇ……」

私がどんなに話しかけても、隣にいるソウは身動きひとつしない。

「ねえ……何か言ってよ、ソウ」

その沈黙に絶えきれなくなって、私は身を乗り出してソウの顔をのぞき込んだ。

すると──

ソウは、唇を震わせて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「なんで、ソウが泣くの?」

「だって、あまりにもミナさんが可哀想で」

「……それも《ゲーム》の作戦?」

「馬鹿なこと言うなよ!」


ソウは今まで聞いたことのない激しい口調で言った。


それは、私が知っている穏やかなソウではなく、

ソウの本心──海の言葉だった。
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