三度目のキスをしたらサヨナラ
「すいませーん、注文いいですかー?」

彼女たちのテーブルから声が聞こえる。
そこでようやく我に返った私は、慌ててトレイにグラスをセットし直した。

だけど、奥の席へ向かう足も、トレイを持つ手も、小刻みに震えていた。


『リョーコちゃん』は、テーブルの手前の椅子に、私に背を向けて座っていた。


「リョーコ、今日は私がおごるからね」

リョーコちゃんの向かい側に座っていた、グループのリーダーらしき女の子が彼女に声をかける。

私はリョーコちゃんの目の前で立ち止まり、彼女の前にグラスを置いた。

リョーコちゃんは私に軽く会釈をして「ありがとうございます」と言った後、リーダー風の女の子に

「そんな……いいよ」

と首を横に振りながら答えた。

リョーコちゃんは想像していたよりずっと低くてハスキーな声をしていた。
それはとても大人びた、色っぽい声音だった。

「気にしないで、今日はリョーコの失恋を慰める会なんだから!」

グラスを持つ手が滑る。

ゴトンと音を立ててテーブルに着地したグラス。
中に入っていた水は、大きく波打ち、もう少しで零れるところだった。

その言葉に、奥に座っていた2人が身を乗り出す。

そして、リョーコちゃんの顔を覗き込んで

「えー!? 海くんと、やっぱりダメだったの?」
「嘘でしょ、あんなに仲良かったのに!」

と大きな声をあげた。

そんな2人に、リョーコちゃんは笑って「うん……」と答えた。
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