前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


覚悟?


その意味を理解する前に、激しいキスが到来。

初っ端からディープキスという凄まじい攻撃技を繰り出してくるわけだけど、此処でひとつ大きな問題が発生した。

ディープキスって意外とキスを交わす時、その、あれだ。あれ。

水音とでもいえばいいんだろうか、とにかく交わせば交わすほど、音がやたら奏でるわけで。

視覚が奪われている俺にとって、聞こえてくる水音は鮮明も鮮明。狭い車内だから余計に音が耳に纏わり付く。つまり、いつも以上にディープキスが激しく思えたんだ。
 

それに気付いちまうと、もう大変に大混乱。

音を聞かないよう必死にキスに集中するしかないし、あらあらまあまあ、先輩は先輩でわざと音を奏でて下さいますし。視覚が利かない分、触覚がよく反応してくれて、反応してくれて。
 

こんなにキスって激しいものだっけ。

熱いものだっけ。

翻弄されるものだっけ。


「せんぱっ」


小刻みに震え出す背中を支えるように腕を回す彼女は、残りのボタンも外しに掛かった。首に掛かったネクタイも取っ払い、俺の上体を崩しに掛かる。

情けないことに容易く上体は崩れた。拍子にローファーが片方脱げる。

 
気付けば俺、座席に寝転んでいるという…、嗚呼畜生。リードされてるよ。受け身男はいつだって女ポジションなんだぜ、乙。


一旦、休憩だとばかりに唇を離した鈴理先輩は、多分ニンマリと笑って荒呼吸を繰り返す俺を見下ろしているんだと思う。

ヒシヒシと視線を感じるぞ。


で、不意に耳元でそっと囁くんだ。「可愛い」と。
 

やめて下さいよ、そういうこと言うの。ゼンッゼン嬉しくないっすから。

本当だったら俺が言いたいんっすよ、誰でもない貴方に。


だけど貴方はそんな言葉、一抹も望んでいない。

だって貴方は攻め女。
独創的な持論を掲げる攻め女に、俺は恋した受け男。
なら彼女の望むことを叶えたい。それくらい思っても、許されるだろ?

「せんぱい、もっと」

キスをねだる俺に、「もっと?」先輩は意地悪く聞き返す。

先を言えって?
これまた、とんだ羞恥プレイだこと。

世も末だよな。

男の俺がさ、

「キスして下さい」

とか言うなんて。
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