前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「下さいは硬い」更なる我が儘を言われてしまう。
「おねだりの言葉、教えただろ?」
俺は手探りで、彼女の首筋に手を回した。
そのまま抱きつき、「ちょうだい」子供がおねだりするような口振りで言えば、右耳に口づけされる。
些少の音さえ艶かしい。
「先輩の匂いがする」
右耳を弄る先輩を余所に、俺は肩口に顔を埋めた。視界がなくなると嗅覚も発達するのかも。
彼女の匂いが、そっと俺の鼻腔をくすぐった。
「っ」鈴理先輩が耳を食んでくる。少し、ビビったけど好きにさせる。
縁を舐めてくる舌の感触が、やけにリアルだ。
やばい、俺、耳弱いかも。
「空」
耳元で名前を紡がれると、やけに体の芯が疼いた。
「鈴理先輩」俺は顔を上げて、彼女の顔を覗き込む。
表情は分からないけど、きっと俺を優しく、だけど熱心に見つめてくれている筈。
「貴方だけです。こんな風にして俺を攻めるのは先輩だけ。そして攻められたいと思うのも先輩だけっす」
俺は真摯に伝える。
本当だったら、草食系男子でもリード権くらい持ちたいところ。
でも俺は落ちた。
攻め女って持論を掲げる肉食お嬢様に落ちた。
だから、鈴理先輩にリード権を託す。彼女が喜ぶって知っているから。
「好きっす」鈴理先輩に頬を崩して告げると、「当然だ」あんたはあたしを好きでいるしかない。
あたし様らしい発言と共に、彼女は俺の腕を取って座席に縫い付けてきた。
そして交わす口づけ。
荒々しいキスは照れ隠しかもしれない。
息が続かなくなるまで、キスを繰り返した俺達は暫し抱擁しあって温もりを共有。
俺達は極めて健全なやり方で、ひとつになった。
「鈴理先輩、あったかいっすね」
見えない分、抱き締める感触で分かる。彼女の体って、とても柔らかい。
「空もな」
鎖骨を指先でなぞり、鈴理先輩はちゅっ、と肌を吸ってくる。
また見える位置に痕を付けたな。困るのは俺なんだけどな。
新たにキスマークを残し、そっと俺の髪を梳いてくる鈴理先輩は幾分機嫌を直したらしい。
「空はあたしのだぞ」
と、台詞に笑声が含んでいる。
「はい」俺は素直に返した。先輩に落ちた時から、いや落ちる前からきっと俺は彼女に捕らわれていたよ。
「先輩の顔が見えないっすね」
俺は目隠しの存在に苦笑い。
せっかくのムードなのに、相手の顔が見えないなんて。
「怖いか?」
「いいえ、怖くはないっす。先輩に触れているから」
「ふふっ。では、体であたしを覚えろよ。そのための目隠しだぞ」
そういうものだっけ目隠しって。
ああそうかも、目隠しプレイなんて所詮下心ありの行為だしな。