前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
持っていたイチゴ大福の箱と通学鞄、そして脱ぎかけのローファーが片方、玄関に落ちた。
横抱きにされた俺は状況を把握できず、目を白黒白。
混乱した頭で相手を見上げる。
イソイソと自分のローファーだけ脱ぐ御堂先輩は、勝手に人の部屋に上がり込む始末。
「あ、あの」
これは一体なんの悪ふざけっすか、俺の疑問に彼女は満面の笑顔で答える。
「鈴理はいつも君にこうするのだろう?
だったら僕だってできる権利あると思わないかい? だって僕と彼女は好敵手なのだから」
ゼンッゼン弁解になってないっすよ。
権利ってなんっすかね、権利って!
大焦りで下ろして欲しいと訴える俺に、「やっぱり君は」襲いたくなるオーラを持ってるとぎゅうぎゅうこの体勢で俺の体を締め付けてくる。
苦しいやら、脳裏の鈴理先輩が憤っているやら、状況にプチパニックやら、もはや俺だけでは収拾がつかない。
なんでこんなことにっ…、もしやまたご乱心っすか。俺はおにゃのこじゃないっすよっ、御堂先輩、お気を確かに!
何度も御堂先輩を呼んで、正気に戻ってもらおうと腕の中で暴れてみる。
あくまでも軽く暴れる程度。幾ら男装をしているとはいえ、相手は女性だからな。怪我はさせたくない。
……財閥の娘を怪我させたら追々、高額な慰謝料を突きつけられそうだし。
嗚呼、こういう時、男って損だよな。
どんなに傍若無人に振舞う女性でも気遣わなきゃいけないんだから!
こうして涙を呑みつつ努力している俺の行為はこの直後、物の見事に霧散される。
何故かっていうと、それは。
「豊福が男だなんてやっぱり嘘だよな。こんなにも、嫌悪しないんだから。なあ、お姫さま」
Chu!
額に柔らかな唇が落とされて、俺は絶句。