前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「鈴理、豊福が許婚の存在を気にしていないと思っているのかい? まさか、彼が気にしてないとでも本気で思っているのかい?」
瞠目する鈴理に呆れたと玲は吐息をつき、
「だから君は守られているんだ」
だって君は彼の不安に気付くことさえできていないのだから、とはっきり物申す。
気付くことさえできないのは、やっぱり彼が気付かせないよう努力しているからか。
愛されているな、チクリと嫌味を飛ばし、玲は冷ややかな眼を作る。
「自分の事も儘ならず、中途半端に彼を落とした。その結果がこれだ。せめて許婚の件を白紙にしてから、彼を落とすべきだったな。
だったらまだマシな状況だったろうに。いつか、傷付く日が来るのならばそれは君ではなく、確実に彼だ」
なあ、鈴理。
僕がどうして彼に惚れてしまったと思う?
可愛いから?
面白い性格だから?
……違うな、無性に守りたい衝動に駆られたからだ。
初めて会ったあの日の夜、ロビーで見た彼の切なげな姿を見て、僕は本能的に思ったんだ。
守りたい、と。
最初こそ否定したけれど、会うごとに僕は確信していった。
守っていきたい男に出逢ったのだと。
もっと深く知りたい男に出逢ってしまったのだと。
一種の一目惚れなのかもしれないな。
「親衛隊の一件で肝が冷えた。まさか、財閥界だけにとどまらず学校内でも、心苦しい目に遭っていたなんて。君は自分の立場も、取り巻く環境も、彼自身についても分かっていない。何も分かっていない。
―…そんな君に、僕は絶対に負けない。そう宣戦布告をしたかっただけだ」
サッとハンカチを学ランのポケットに仕舞うと、玲は好敵手から視線を外して踵返す。