前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
そうそう、先輩の部屋を訪れて一つ驚いたことがある。
彼女の部屋は俺と同じ和式なんだけど、洋服掛けのところに先輩のセーラー服が掛けられていたんだ。
それの何が驚くんだって話だけど、思い出して欲しい。
彼女の身なりが始終学ランだってことを。つまり学校ではセーラー服で過ごしているんだ。
俺の指摘に御堂先輩が唇を尖らせた。
「嫌だが着るしかないだろ?」
それが学校の校則なんだから。
幾ら財閥の令嬢と言っても校則を覆すことはできないと御堂先輩。
でもどうしても着るのが嫌だから、学校に入るギリギリまで学ランで過ごすんだって。
二回も三回も着替えるってすっげぇ手間だと思うんだけど、男装を貫きたい彼女は手間も手間と思えないらしい。
冗談まがいで、「俺にセーラー服姿を見せてくださいよ」って言ったら、
「豊福のセーラー服姿を見せてくれるならいいぞ」
って、笑顔で返された。
セーラー服姿の御堂先輩を見たかったけど、自分も可愛かったから俺は丁重にお断りして願いを絶った。
野郎の制服姿なんて、しかも俺が着るなんて想像するだけで吐き気ものだろ?!
よってセーラー服姿は断念せざるを得なかった。
先輩のワンピース姿、可愛かったんだけどな。
土日は約束どおり、実家に帰らせてもらった。
やっぱり我が家が一番で実家に帰るとホッとする。
どんなに良い部屋や美味しいご飯を提供されても、我が家のぬくもりに勝るものはないと思う。
首を長くして帰りを待ってくれている両親と水入らずの時間を過ごすのは楽しかった。
実家を離れて、改めて俺はこの家が好きで、俺を育ててくれた両親が大好きなんだと痛感する。
どんなに部屋が狭くて、食事が節約レシピばりでも俺は豊福家が一番安心した。
「苛められていませんか?」
「無理はしていないか?」
心配してくれる両親が嬉しくて、俺はつい笑顔で大丈夫だと答えてしまう。
バイトでクッタクタになっていても俺は自然な笑顔でいられる自信があった。
それだけ俺は家族が大好きだった。