前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


【竹之内家・母屋の第一書斎にて】
 
 

ぐったりと一人掛けソファーに腰掛けている鈴理の父、英也は困った事態になったとこめかみに手を添えていた。

同じく鈴理の母桃子も深い溜息をついている。

一方で竹之内四姉妹の長女咲子と次女真衣は何処吹く風で茶菓子を口元に運んでいた。



只今、竹之内家では非常に困った事態が起こっていた。
 
この場にいない三女の鈴理がなんと婚約破棄を申し出てきたのだ。
しかも相手方とタッグを組んで。


既に内輪婚約式は終えてしまったというのに、婚約を破棄したいとは。

勿論簡単に破棄できるとは思っていない。

鈴理達は結婚以外の手段で財閥の存続を約束すると告げてきたのだ。


結果を出したいから、両親に自分達のできる業務はないかと聞いてきた。


突拍子もない。
英也や桃子は少なからず、ショックを隠しきれなかった。


今頃二階堂家も揉めていることだろう。


三女を自室に戻らせ、既に成人を迎えている娘二人と話し合っているのだが、はてさてどうしたものか。

 
また我が儘を、英也の独り言に真衣がピシャリと反論した。


「先に酷なことをしたのはお父様達ですよ」と。


思春期の青春を意図も簡単に奪った罪は重い。

三女の肩を持つ真衣に、咲子が苦笑を零しながら「確かに性急だったわ」鈴理が反感を持っても仕方がない、と肩を竦める。
 

「だからって!」


桃子は声音を張り、婚約を破棄にするなんて二財閥の面目を潰すのも同然だと嘆いた。

これが正式じゃなかったから良かったものの、二人の内輪婚約式は終えている。

祝ってもらった直後に婚約破棄なんて赤っ恥も良いところだと桃子は眉を下げた。


やっぱり鈴理を納得して理解してもらいましょう。桃子は言葉を重ねる。
 

「鈴理は庶民の子に恋をしています。その子のために、きっと……、考えが甘過ぎますわ。貴方、鈴理をとめないと」
 

桃子は悲痛な眼を夫に向けた。

英也が答える前に、「無駄です」真衣が冷たく返す。今の鈴理は誰にもとめられない。それこそ家族でさえ。

妹を止める理由もない。好きにさせたらいいのだと台詞に棘を巻いて真衣が親に言い放った。

「どうして楽観的なの」桃子の非難に、「お母様は何も知らないんです!」真衣が感情的に返す。

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