前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
長話になってきたため、英也は裕作に隣に座っても良いかと尋ねる。
本当ならば自社に戻って報告書作成にかからないといけないのだが、話が弾んできた上に、自分も談笑を止めたくないという気持ちが申し出として形を現した。
肯定の返事を頂戴できたため、英也は劣化が進むベンチに腰掛けた。
雨風によってくすんでしまった木組みが軽く軋んで唸り声を上げる。
「今。ご子息はどちらに?」
英也の問いに、
「御堂家にいます」
一応婿養子として花嫁修業……、いやいや花婿修行をしなければいけませんから。裕作は吐息をついた。
「平日は向こうの家族に預かって頂いているんですよ。土日はバイトを終えて自宅に帰ってきます」
「アルバイトをしてらっしゃるのですか? それは感心ですね」
「空がどうしてもしたいと言うもので。びっくりしましたよ。あの子、事後報告でバイトをしたいと言ってきたんです」
採用後に言ってきたんですよ?
私も妻も驚きかえりました。
奨学生なのだから勉強第一にして欲しいというのに、私達も学院生活を楽しんで欲しいのに、空にはそれが伝わっていなかったようです。
前触れもなしにバイトするから、なーんて言われまして。
自分の小遣い稼ぎならまだしも、家計に入れると分かっていたからこそ大反対しました。
親子喧嘩にまでなりそうになったんですが、向こうの熱意に根負けしてしまいました。
先程、我が儘を言わないって言いましたが、家庭面に関してはわりと我が儘かもしれません。うちの息子は。
思えば、いつもそうです。
エレガンス学院に入る際も、奨学生を取れなかったら働くって言い出したんですよ。
受験後にそれを言われまして私も妻も絶句したものです。
普通に入っても価値はない。奨学生として入ってこそエレガンス学院を選んだ意味がある!
きっぱり言われまして、親子喧嘩勃発ですよ。
私達は家庭のことなど気にせず、息子に学校へ行って欲しかったのです。
せめて高校までは通って欲しい、切に願っていました。一親として。
稼いでいる私の立場も無くなりますしね。
けれど息子には伝わらなかった。
どんなに言っても、奨学生を取れなかったら働くの一点張り。
中卒で働ける場所なんて限られているのに。
長期労働、低賃金は当たり前なのに。学歴社会を甘く見ている息子をきつく叱り飛ばしたものです。
結局、学院に奨学生として受かったので何事もなく終わったのですが。