前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
どーんな嫌味つらみを言われるかと覚悟していたら、「御機嫌よう。豊福くん」で満面の笑顔だぜ?
いや、アータ、頭でも打ちましたか?
と本気で心配する中、どうにか気を持たせてロッテンマイヤーさんに課題が全部出来なかったことを詫びた。
するとどうだい。
やったところまで見たロッテンマイヤーさんは、「少し多過ぎましたね」けれど此処までやったことは評価に値しますって頭をよしよしよし。
俺は悲鳴を上げそうになったよ。誰この人!
俺の知るロッテンマイヤーさんはどこだい?!
まさかのスパルタ方式から褒めて伸ばす方式に変えました?!
過度なまでに指し棒で叩かれるのも嫌だけど、こんなに優しくされるのもアウチ…、脂汗ものである。
絶句している俺にお構いなく、彼女は、次のようなことをのたまっている。
アーデルハイド。
今の例文をフランス語に訳してみて下さい。
分からない発音があれば、飛ばして下さいね。
アーデルハイド。
少しずつで宜しいので口癖をなおして下さいね。
いえ、公の場で使わなければそのままでも宜しいのですよ。
アーデルハイド。
最初の頃に比べると、かなり上達していますよ。
この調子で私とお勉強してまいりましょう。
さあアーデルハイド、頑張りましょう。
挫けてしまう時もあるでしょうけれど、大丈夫、貴方は期待された婚約者なのですから!
………。
厳しいロッテンマイヤーさんもヤだけど、馬鹿みたいに優しいロッテンマイヤーさんもコメントに困る。
いやそりゃさ、指し棒で勉強面や礼儀面でビシバシバシバシ……幾ら御堂家のためでも、俺だってやる気なくすよ? なくすけどさ。
人間、最初の立ち振る舞いが大事だよな。第一印象が大事というか?
まだ彼女の優しさには慣れないや。
ハイジだってきっと、こんなロッテンマイヤーさんを見たら別の意味で山に帰りたくなるだろう。
クララだってドン引くに違いない。
実際、偶然(なのか分からないけど)部屋を訪れた御堂先輩が引いていたもん。