前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
婚約者の驚愕を無視して、「早く!」俺は怪我人を引きずり出すよう催促し、自分も間に潜り込む。
部外者の出現によって混乱を招くかと思ったけど、それどころじゃなかったからさほど影響はなかった。
怪我人はスカートのプリーツが折り重なっているセットの角に引っ掛かって出れないようだった。
御堂先輩がそのプリーツの引っ掛かりを取っ払って、俺に彼女を引きずり出すよう命じてくる。
言われたとおり、俺は渾身の力を込めて怪我人を引っ張り出す。
セットから怪我人が出たことで、少しばかり部員の気が緩む。
それによりセットを支える手が危ぶまれた。まだ御堂先輩がそこにいる。
「先輩―――ッ!」
怪我人を避難させた後、俺は急いで彼女の腕を引っ掴むと先程の力以上を発揮して彼女を引っ張り出した。
アンバランスなつっかえ棒は脆くも崩れ、セット共に倒れる。
(ヅッ!)
両足に鋭い痛みを感じたものの間一髪で婚約者を引きずり出すことに成功した俺は、その場で尻餅をつき、腕の中にいる婚約者の安否を確認。
怪我が無いことを確認してホッと息をついた。
「無茶しないで下さいよ。ホンット寿命が縮むじゃないっすか!」
怒号も情けないことに声が震えてしまった。
あ、今更っすけど御堂先輩、学ランじゃなくてこの学校の女子高生らしいセーラー服を着てますっすね。
ようやく貴方の女子高生姿を見れました。
似合ってますよ。
なんて、心中でおどけてみる。
遺憾なことに余裕が無いため口には出来ない。
何事もなくて良かった。御堂先輩が潰されなくて良かった。
それだけが俺の心の救いだ。もしも目の前で彼女が潰されていたら、それこそ俺は大きな後悔の波に呑まれていたことだろう。
あと少し駆けつけるのが遅かったら、御堂先輩はセットの下敷きに。絶対に嫌だった。
目の前で大切な誰かが失われる、そんな辛い想いはもうしたくなかった。もう、そんな想いだけは。
俺の心配を余所に、御堂先輩が膝から飛び退いて怪我人の下へ。
「綾!」
大丈夫か綾。
しきりに声を掛け、頭から血を流して失神している怪我人の安否を気遣っている。
きっと彼女と仲の良い部員のひとりなのだろう。
怪我した女子生徒さんはその場に寝かされ、顧問の先生によって施しを受けているようだ。
頭を強打しているようだし、安易に体を動かせないんだろう。
担架を持ってくるよう先生が指示をしている。
大丈夫かな。
あの子……、御堂先輩が率先してハンカチタオルで止血を試みているようだけどパッと見深手に見える。