前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
―――…本当は出身じゃない、後ろめたさがある。
俺の出世は出世じゃない。
出世どころか、俺は……。
常々借金のことは気にしないようにしていたけれど、楓さんの質疑で俺は痛感と予感を抱いてしまった。
これから先、何度だって出身のことで、出世のことで問い掛けられる。
その度に俺は口を閉ざして愛想笑いを浮かべなければいけない、と。
御堂家のためにも真実のことは明言できないだろう。
決して真実だけは語ってはいけない。
信用に信用を置ける人でないと。
「豊福」
前を歩く彼女が名を紡いできた。
「はい」返事する俺に、「堂々と僕の隣にいればいいんだ」出身なんて気にしていない。プリンセスが男前、じゃね、女前な台詞を吐いた。
俺の後ろめたさの真実を知っていても、彼女は俺を大切にしてくれる。
俺を尊重してくれるんだ。
ほんっと紳士なプリンセス。
「大丈夫っすよ。俺は貴方の婚約者であることを誇りにしてますから」
この言葉に嘘偽りは無い。
俺は貴方の婚約者で本当に良かったと思っている。
誰よりも今、貴方を守りたいと思うほどに。
なんとなく気持ち的にすっきりしたくなった俺は、会場に行く前に手洗いに行きたくなり、二人に先に行ってて欲しいと頼む。
返事を待たずに手洗いに向かった俺は、あまり御堂先輩に心配を掛けないようにしないと、と気持ちを改めた。
余計な気を回したくない。
いつも支えてくれた御堂先輩にだけは、絶対に。
男子便所に入ろうとした刹那、「豊福くん」背後から声を掛けられた。
視線を流すとそこには。
「淳蔵、さま?」