前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
破談はしないつもりなのか。
これまたどういう意図で?
それに人のことを私物、そりゃ大したお褒めの言葉っすね。
言われ慣れているからいいっすけど。
ああくそっ、平常心を保っているようで内心じゃビクビクだよ。
懲罰ってなにされるんだろ? 鞭打ちの刑とか?
……流石にそれはないよなっ、この現代日本には!
ちょっとありえそうで怖くなったんだけど!
「ずっと俺を見張っていたんっすよね」
俺は沈黙になるのが嫌で相手に話題を吹っ掛けた。
「ええ」貴方がどう動くのか、すべて見張らせて頂きましたよ。博紀さんが軽い口振りで答える。俺は相手をチラ見した。
「だったらなんで貴方のくれたUSBメモリに発信機なんて付けたんっすか? 俺が使用する保証なんて何処にもなかったっすよ。
どっかで見張っていたなら、付ける必要もなかったでしょうに」
「貴方の選択肢を増やして様子見をしていた、というところでしょうかね」
空さまは会長から例のUSBメモリを手渡され、竹之内三女と関係を持つよう強要されました。
この時点で貴方が起こす行動は各々二つしかない。
USBを相手に渡す、渡さない。
関係を持つ、持たない。
そこに僕の持っていたUSBメモリを加えると、貴方はどんな行動を起こすのか? 少しばかり貴方の心理を見定めたかったんですよ。
例えば僕のUSBメモリと向こうのUSBメモリを摩り替えて、あたかも自分を悪に仕立て上げる。
感染していないUSBメモリを手渡したに変わりは無いのですが、摩り替えた事実は変えられない。
それによって向こうの気持ちを断ち切らせようと試みることも出来ました。
高確率で貴方はその行動に出るのではないかと思っていましたよ。
ただ現実は摩り替えるほど甘くなかったようですがね。
貴方はつくづく人に甘い。
竹之内三女に歩みよって思わせぶりな口調を発していたのは、玲お嬢様に事が知れた時、少しなからず自分にマイナスなイメージを与えるため。
現に貴方はさと子にマイナスイメージを植えつけることに成功している。
さと子から捲くし立てられていたあの時、胸の内を明かして味方に付けることもできたでしょうに。
ああすみません、デガバメしていたんですよ、僕。
憶測ですが三女に対しても、自分がデータを盗もうとしたことを告げているのでは? いえ告げています、ね。僕には確信があります。
貴方は人から恨まれる選択肢より、汚名を被ることによって一連の出来事を和らげようとしていた。本当に甘いですね。
「会長がどうして源二さまに自席を譲らないかお分かり頂けます?」
不意に伸びてきた博紀さんの大きな右の手の平が俺の首を包む。
抵抗すら出来ない俺の首を徐々に絞め上げる博紀さんは、見慣れた笑顔で「あの人も甘いんですよ」と耳元で囁いてくる。