前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
途方に暮れて両機具を眺めていていると、『空っ』お願いだから返事をしろ、片側の携帯から懇願が聞こえて来る。
『あんたは無事なのか? ひとりで無茶しているんじゃないのか?! 返事をッ、あ、大雅!』
『豊福! さっさと返事しやがれ! シメっぞ! ッ…、無事なのかどうか声くれぇ聞かせろよ阿呆!』
―――…鈴理先輩。大雅先輩。
『豊福っ、声を聞かせてくれ。君は今何処にいるんだいっ。もうジジイのところなのか?!』
―――…御堂先輩。
「ありがとう」
この単語が皆に届いたことが確認できた。
双方から聞こえてくる喧(かまびす)しい声音がそれを教えてくれるのだから。
けれど、彼等の声は俺に届かない。
何故なら俺の周辺が暗くなったからだ。
雲が出てきたわけじゃない。お空は快晴だ。
視線を持ち上げれば、「此処に居られたんですか?」おかげで捜し回ったじゃないですか、と相手から呆れられる。
うそつけだ。
居場所なんて最初から把握していたくせに。
俺は見たし聞いたんだぞ。
今朝、淳蔵さんと携帯で会話していた姿を。
貴方の渡したUSBメモリに発信機が付いていたらしいっすね。
びっくりしましたよ。
貴方が連絡役として淳蔵さんにその都度報告していたんっすね。
俺の日常生活の様子や外出、その他諸々を。
どおりで淳蔵さんが頃合を見計らったかのように、俺がアジくん達と一緒に遊んだ日にやって来たわけだ。
偶然にしちゃ出来すぎていると思ったんだよな。
目で電話を切れと指示されたから、俺は不謹慎発言を連発している機具の息の根を一時的に止めた。
電話を切った上で電源を落としたんだ。
本当は会話したかったけど、それどころじゃなくなっちまった。
「これからは貴方が俺のお目付けっすか? ……博紀さん」
いつも着物を着て出迎えてくれた召使さんに向かって素っ気無く尋ねる。
「ええ。そうですよ空さま」
これからは僕が君のお目付けです、一笑してくる博紀さんは恭しく頭を下げた。
今日は着物じゃなく、スーツ姿。カックイイ!
でもその態度はちっとも嬉しくない。
まさかさと子ちゃんの片恋相手が淳蔵さんと密接に繋がっていたなんて。
良い顔でお世話してくれたからこそショックを隠しきれない。
「やはりこうなりましたか。貴方は甘ちゃんなのである程度、予測していましたよ。僕も、会長も。教育は過程段階でしたし、無理だとは思っていたんですよね」
ごめんなさいね、甘ちゃんで。
ヘタレな俺は遺憾なことに冷徹塩い人間にはなれなかったんす。
「迎えに来たんでしょう?」
相手を見つめて用件を聞く。
「はい。そうです」
貴方の愚行を懲罰するために、ね。博紀さんがニヒルに笑った。
「懲罰っすか。分かってます。婚約も破談でしょう? すべて覚悟の上の行為っす。俺の代替は沢山いますし」
「何を勘違いしてらっしゃるんです? 貴方は御堂家の私物ですよ。会長は破談なんてハナッから考えていません」