前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「鈴理先輩のこと、愛しているんっすね」
問い掛けると、真摯に頷き、彼は肯定した。
「俺は鈴理を愛している。それは異性としてではなく、兄弟のように育った家族として。これから先も俺はあいつを守り続けていきたい」
守る気持ち。
これはきっと一端の男が、一端の女に抱く感情だと思う。
なあ豊福。俺には好きな奴がいる。
そいつを見ているだけで心が躍る、可愛い女だ。
けどよ、いざ天秤に掛けると、俺は鈴理を取っちまうんだ。
てめぇなら分かるだろ?
どうして俺が好きな女じゃなく、鈴理を取っちまうか。
好きと守りたいはちげぇ。
俺の抱く好意にも種類がある。
その好意を天秤に掛けた時、俺は異性としての好意よりも、守りたい気持ちからくる好意を選択しちまう。
今のてめぇとおんなじだ。
「てめぇも、もう、決めているんだろう? そんな面してやがる。俺が言うのもなんだけど、険しいぜ、この道。
特にてめぇは庶民出、財閥界はてめぇにとって辛いことばっかだ」
「……大雅先輩。どうして好意には種類があるんでしょうね? 一種類しかなければ、人間はもっと馬鹿正直に生きられると思いません?」
「ちげぇねぇや」イチゴミルクオレのパックを潰し、大雅先輩は腰を上げた。
「俺達はまだガキで好意の判別ができねぇ。守りたい、イコールそれが好きな奴。運命の人間と思いがちだけどよ、現実はそうじゃねえ。
だから困惑するし、途方に暮れるもんだ。
てか、まだ俺達十代だぜ? ながーい人生であれこれ憶測を立てながら生きてもしゃーねぇだろうが」
だから今の感情に従って生きるんだよ。
それこそ馬鹿正直に生きてみて、駄目だったら駄目で挫折してみりゃいい。
良ければ良いで素直に喜べばいい。
人生ってそーゆーもんだと思うぜ? 俺は。
くつくつと喉で笑い、大雅先輩は持っていた潰したパックをゴミ箱に捨てるとスツールには戻らず、鞄を持って踵返した。
もう行くのか? 視線で訴えると、
「そろそろあいつが来るだろうし」
お邪魔虫は退散するつもりだと俺様は片手を挙げる。
俺は一笑し、おどけ口調で彼の背に言葉を手向けた。
「先輩は本当に鈴理先輩を愛しているんですね」
「うっせぇな」何度も肯定してやらねぇよ。投げやりに返す俺様は、ひらひらっと手を振り、病室を後にする。
クスクスと笑ってイチゴミルクオレを飲み終えてしまう。
また読書に勤しもうと、文庫を開き、目を通した。
そうして時間を過ごしていると、
「来てやったぞ空!」
ノックなしにばばーんと扉を開ける非常識者が。
溜息。脱力。眩暈。
ちゃんとノックして下さいよ、注意をしても聞きやしない。
あたし様は紙袋を片手にずかずかと病室に入って来た。