清水の舞台
「いや、今日が始めてだ。少し前にオープンしていたのは知っていて、気になっていたんだよ。それで、今日こいつを誘ってやってきたんだ」

「そうだったんですか。私、何回かこの店に来たことあるんですけど、はじめて他のお客さんがいたので、嬉しくなって話しかけちゃいました」

真理子は必殺の笑顔でそう言った。

「まあ、お兄さんが男前だから、そのうち忙しくなるだろ。俺たちもまた来るよ。ここらではよく飲んでいるんでね」

一人の男がそう言うと

「朝方までやっているなら、アフターでつかってやるよ」

ともう一人の男が言った。

「ありがとうございます」

倉田はそれだけ言った。

また、沈黙になる前に真理子は話しかけた。

「私は松木って言います。この人は倉田さん。お二人、お名前はなんとおっしゃるんですか。よろしかったら、教えてください」

「俺が塩崎でこいつが山田」

「男前なのが塩崎さんで、二枚目なのが山田さんね」

「うまいこと言うね。お姉ちゃんも何か好きなもの飲みなさい。お兄さんもね」

塩崎は機嫌よくそう言った。

「嬉しい。こちらからナンパしたのに、なんかすいません」

その後、二時間ほど真理子と二人の中年男は酒を飲んだ。


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