清水の舞台
「倉田さんはおいくつでしたっけ」

沈黙の前に真理子が話した。今日は客として来ているのに、バーのマスターに気をつかっている自分に少し腹が立った。

「二十八です」

倉田は大きな声で答えた。口数は少ないが、声は大きい。

「このバーの前は、何をされてたんですか」

「大学を卒業してからは、A銀行の大阪支店に勤めていました。そこを辞めてからは、北新地のバーでバイトをして金を貯めてたんです」

「A銀行をやめたんですか、もったいない」

「ええまあ、この仕事がずっとやりたかったので」

と倉田が言うと同時に別の客が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

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