雪解けの頃に
「あらそう。あんなにマメな人が珍しいわね」
 
 二人の長い付き合いを知っている母も、首をかしげる。


「ったく、彼女の誕生日に声を聞かせないなんて、薄情者よね!」
 
 理花がぷぅっと頬を膨らませる。
 

「そんな事言わないの。雄一さんにだって都合はあるんだから」
 
 シックなスーツに身を包んだ娘が子供っぽく振舞うのは、ギャップがあってなかなかほほえましく見える。
 
 そんな娘を見て、母親はくすくすと笑った。

「あら?お母さんは彼に味方するの?ひどいわぁ。なんて、冷たいの。

 お母さんは私のことなんて大事じゃないのね」
 
 チロリと見下ろし、口を尖らせて理花は母親に『口撃』する。


「だって、雄一さんのこと好きだもの。

 いつも優しくて、穏やかだし」
 
 この程度の娘の態度では、穏やかな母は崩れない。


「私のほうがもっと、もっと雄一のこと好きですからね!」
 
 ふふ~ん、と鼻で笑って

「部屋に行くから」
 
 と、残りの階段を駆け上がっていった。



 後ろ向きになった母親には見えなかったが、この時の理花の顔はどこか影が差し、何か気がかりがあるようだった。

 急に連絡の取れなくなった雄一。
 
 心当たりが的中しないことを理花は必死で祈っていた。
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