天体観測
「それ……本当なのか?」

隆弘のことだとは思っていたけれど、まさかこんなことだとは思わなかった僕は、少し情けない声で言った。

「うん。ほんまに一瞬だけやったけど」

「何で連絡くれなかったんだよ」と、僕は少し強めの口調で言った。

「それ……は」 

「恵美」

「おじさんに……おじさんに止められてん」

「父さんに?意味がわからない」

「『司は司で今、岐路に立っている』って言ってたから」

「岐路?」

「そう言ってたよ」

母さんのこと以外考えられなかった。父さんは知っていたのか。いや、母さんをHIRO向かわせたこと自体が父さんの仕業かもしれない。

「ついさっき、進む方向を決めたよ。それよりも隆弘はどうなんだよ?」

一つ深呼吸をして、恵美が言った。

「意識が戻ったのは、たぶん細胞の死滅がこれ以上進行しようのないところまできたからやって。隆弘の体に残ってる細胞がようやく事態に気付いたから。……隆弘は……もうすぐ死ぬって」

恵美は泣かなかった。あの深呼吸ですべての感情を吸い込んでしまって、父さんが言った言葉を、ボイスチェンジャーでそのまま再生した、そんな印象を受けた。

「司、私どうしたらいいかな?」
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