天体観測
「今の子供は宇宙の神秘より、ゲームの不思議らしいですよ」

「なるほどな。じゃあ少年はいつも何してるんや?」

「映画を見るか、本を読んでます」

「最近見た映画は?」

「『さよならジュピター』」

「それはまあ……いい趣味してるんちゃう」

そう言うと、マスターはコップを棚にしまいはじめた。

僕は目の前にいるマスターの少年時代の想像し、僕の少年時代を思い出そうとした。きっと僕には、マスターの時代のほうが合っていたに違いない。

「ねぇ、マスター、人って死んだら星になるのかな」

「ああ、なるとも。少なくとも、僕は信じてる」

マスターは意外なほど真面目に言った。その目は、そのことを信じて疑わない色をしてる。

「青年はどう?」

「せいぜいなるのは、灰くらいだよ」

「おもしろくない奴やな。もっとロマンティックな考え方せえへんと、女にモテへんぞ」

「幼なじみの女の子に同じこと言われたよ。でも、人間は現実を認識して大きくなるんだ」

「考え方が古いぞ」

「そういう小説しか読まないんだ」

僕は、すっかり冷たくなったトーストを噛り、ジンジャーエールをすすった。時計を見ると、きっかり一時間たっている。

「少年、君いくつや」

「十八」

「受験生か。少しはロビーで勉強してる子見習って、勉強したらどうや?受験は夏が勝負やぞ」

「僕も、朝はそう思ったよ。でも、勉強するには今日は暑すぎる」

「たしかに今日は暑い」

僕は、振り返って車の方を見た。ちょうど、恵美が起きたらしく、外で軽いストレッチをしている。

「それに、あまり受験勉強とか必要ないんだ」

「何で」

僕は軽く咳払いをして、もう一度、外を見た。恵美はこちらに向かってきている。外にいる恵美は少し前に見た恵美よりもきれいな気がした。

「介護の……介護の専門学校行くつもりだから」
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