天体観測
家に着いたときは、すでに太陽は出番を終え下手にはけている最中で、夜が待ってましたと上手の方から顔を出しはじめたときだった。

僕は居間の電気をつけ、窓を全開にして、ソファではなくフローリングに座った。

テレビを付けても大した番組をやっていなかったので、やることのない僕は庭に出てみることにした。

三ヶ月に一度、庭師に手入れしてもらっている我が家の庭は整っていて、文句の付けようがないが、毎年この季節には、セミとカエルの住みかになる。至るところで、ミンミン、ゲコゲコ鳴いている奴らは、正直うっとうしい。求愛のための手段なんてよく考えればいろいろ見つかるはずなんだ。でも、たまにセンチメンタルな気分でいるときに聞くと、悩みながら生きている人間が、すごくちっぽけに思ったりもする。なんていったって、奴らは短い生命の大半を鳴くことで費やしているのだから。

リンリンと電話が鳴って、出てみると早くも半分酔っ払った様子の母さんだった。

「今から帰るから」

「今日は彼氏とよろしくやって帰ってきなよ」

「バカ言うんじゃないの。母さんは司の母親なのよ。そんなこと、できるわけないでしょ」

「彼氏の存在は否定しないわけだ」

「本当に、可愛げがないわね。ご飯は?食べた?」

「まだ」

「何か買ってこようか」

「じゃあ、ベガ」

「ベガ?何それ?」

「うそ、冗談。暑くてあまり食欲がないから、お茶漬けでも作って食べとく」

「わかった、じゃあね」

「うん」

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