天体観測
僕は、母さんからの電話を切ると、風呂場に行って少し熱めに沸かしはじめた。それからキッチンに戻り、夕飯の仕度にとりかかった。

ご飯が炊き上がった時には、風呂の湯も丁度いい具合だったので、先に風呂に入ることにした。

こんな夏の暑い日でも、風呂は熱いのにかぎる。シャワーなんてもってのほかだ。肩までしっかりつかって、きっちり百数えてから出る。こんなことをしないと一日の終わりが迎えれないなんて、少し情けない気もする。

僕はやっぱり少年だ。

夕飯を食べている最中に、母さんが帰ってきた。

居間のソファに座っている僕の前まで来て、母さんは言った。

「ただいま」

「うん」

「母さんにもお茶漬け用意してくれる?先にお風呂に入ってくるから」

「わかった」

母さんは服を脱ぎながら風呂場に歩いていって、僕はお茶漬けをかきこんで、キッチンに向かった。

母さんは十分もしないうちに出てきた。そしてちょうどタイミングを見計らったかのように、夕飯も出来た。

実際、僕はタイミングを見計らったのだけど。

母さんは女性のわりには早風呂で、毎回十分もしないうちに出てくるのだ。

「鯛茶漬けとはなかなか乙ね」

「僕は鮭茶漬けだった」

「どうして?」

「母さんには、家計を支えてもらうためにより良いものを食べてもらいたかったんだ。だから僕は鮭にした」
「本当のところは」

「鯛は少し悪くなってたんだ」

母さんは少し微笑んで、僕にビールを催促した。

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