天体観測
あいにく、冷蔵庫には発泡酒しかなく、仕方なくそれを出した。母さんは明らかに不満そうだった。

「発泡酒って飲んだ気がしないのよ」

「飲んで帰ってきたんだから、ちょうどいいじゃないか。飲み過ぎが体に悪いことくらい、幼稚園児でも知ってるよ」

「生意気」

僕は母さんを無視して、テレビを付けた。ニュースでは府議の斡旋収賄を取り上げていた。

「悪いことをするとバレるってこと、どうしてわからないのかしら」

母さんは早くも発泡酒を一本空けて、二本目に突入していた。

「あんがい、それだけ、ストレスが溜まる仕事なんだよ。何一つ政治のことわかってないような連中に、頭を下げてまでやるような仕事なんて、考えるだけでストレスだ」

「寛大なのね」

「税金も払ってないからね。偉そうなこと、言えないよ」

僕はテレビを消して、母さんの前の椅子に腰を下ろした。特に話題は思いつかないが、確かめてみたいことがある。

「ねえ、本当に彼氏いるの?」

「何言ってるのよ。司が勝手に言いだしたことじゃない。それに、仮にいたとして、どうだというの?」

「僕も、母さんは母親である前に、女だと思うよ。でも……」

「でも?」

「母さんはどうしようもなく僕の母親で、僕はどうしようもなく、母さんの息子だってことさ」

僕がそう言うと、母さんは、感情と理性のダムが決壊して、自分が女であることを忘れたかのように、笑いだした。その笑いの下品さは、マスターのそれとそっくりで僕は、顔を伏せずにはいられなかった。

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