天体観測
母さんはそのまま、たっぷり五分は笑い続けて、やっと笑うのを止めた。

「ここまで司に愛されているとは思わなかったよ」

まだ、母さんの声は笑い声で、僕は顔を上げることが出来ないでいた。

「司は意外に、マザコンなんじゃないの」

「それは違う」

「もしかして、怒った?」

「怒ってはないけど、バカなこと言ったって後悔してる」

「そんなこと言わないで。イイコイイコしてあげるから、こっちいらっしゃい」

母さんはまた、どうしようもないくらい笑いだした。
こうなると、この現状を打開するには僕の伝えたいことをありのまま言うしかない。

「母さん。俺が言いたいのは、母さんはどうしようもなく僕の母さんであるように、やっぱり父さんも、どうしようもなく僕の父さんってことで、仮に母さんに彼氏がいて、その人と再婚したとしても、僕はその人を父さんと同じようには考えられないってことなんだ。でも反対してるわけじゃない。さっきも言ったけど、母さんは母親である前に女なんだから」

僕がそう言うと、母さんは急に笑うのを止め、僕の顔を覗き込んだ。そして、今までとはうってかわって、驚くほど真面目な顔をした。

「大丈夫よ。彼氏なんていないから。それに、私の夫はあなたの父親だけよ。後にも先にもね」

母さんは僕の方を見ないで庭の方を見て言った。僕も母さんを真似て、庭の方を見て、言った。

「じゃあ……どうして」

母さんは返事をしなかった。代わりに冷蔵庫から三本目の発泡酒を持ってきて、グラスに注がずに缶のまま半分くらい飲み干した。

僕はもう、これ以上何も聞くことが出来ないと悟り、自分の部屋に戻り、勉強机に向かって、世界史の参考書を開いてみても、どうも頭に入ってこない。

どうして僕はあんなことを聞いたのだろう。いつもなら、気にもしなかったことなのに。

それはきっと、暑さと星のせいに違いなかった。

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