天体観測
「今すぐどうこうなるわけじゃない。けれど、一つの可能性として、隆弘くんは危ないんだ。下手をしたら、一週間から二週間で命を落とすことになる」

僕は一瞬、目の前が真っ暗になってその場に座り込んだ。

父親が何ヵ月ぶりかに息子と話す内容として選んだことが、幼なじみの弟の死の宣告とは誰が想像できるだろう。

もう、暑さも感じない。

「一週間から二週間って……今すぐどうこうなる範囲じゃないか」

「そうだな。すまない。こっちもこっちで、結構混乱しているんだ」

父さんはポケットから煙草を取り出して、口に加えた。初めて見る、父さんの姿だ。

「初めは、薬の副作用かと思ってたよ。どんどん、髪が抜けていくんだ。よくドラマとかで見るだろう?白血病患者の髪が抜け落ちていくの。あれだよ。だから、気にもしていなかった。楽観視していた。苦しむ姿を見ないで済むぶん、植物状態のままでよかった。なんて不謹慎極まりないことを言っていたくらいだ」

煙草をくわえたまま父さんは、器用に煙を吐き出した。

「それが四日前のことで、チームが重大さに気付いたのは、恥ずかしいことに昨日だ」

「何があったの」

「聞きたいか?」

「ここまで聞いたら最後まで聞くし、聞かなきゃいけない。僕は、あの二人に背を向けちゃいけないんだと思う」

父さんは煙草を携帯灰皿に押しつけて、残っている煙を吐き出した。

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