天体観測
「お前にまずわかってもらいたいのは、薬のことだ。お前は、薬をどう考えてる」

あまりに唐突な質問に僕は緊張した。

「治癒力のベクトルをプラスに向けるもの……かな」

「重要なことは、薬そのものが病気を治すわけではないってことだ」

「あくまできっかけ作りってわけだ」

「そうだ」

僕はようやく立ち上がって、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、一口飲んだ。自分でも驚くほど、喉が渇いた。

「ここからが本題だ。今、地球上にあるすべての薬は一応、お前が言った通りの役割を果たす。でも、残念なことに例外というものもある。それもわかるな」

「不変や永遠がないように」

「うまいこと言うな」

僕は軽く微笑んで、軽く舌打ちをした。

「百億の人を治した薬でも、百億と一人目の患者を治すことは出来ないかもしれない」

「隆弘は運悪く、百億と一人目になったってこと?」

「なったわけじゃないが、そういうことだ。隆弘くんには常識が通用しない」

壁に掛けてある時計が三時を告げた。あれから約二時間、話は何一つ進展している気がしない。

「僕が聞きたいのはもっと具体的なことだ」

僕の口調に父さんは驚いて、口にしていたミネラルウォーターを落とした。

「そう怒るな」

「さっきも言っただろう。僕はあの二人に背を向けちゃいけないんだ」

「隆弘くんは先週から微熱が続いていたんだ。でも、病院としてはそれほど気にかけていなかった。当然だろう?微熱程度のことを、真剣に診ていたら、病院なんてまわらない」
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