天体観測
そのとき、電話が鳴った。この場の空気には似合わない振動と、『Saturday in the park』が鳴り響いて、父さんが目で電話を取るように言ったが、僕は居留守を使わせてもらうことにした。電話は五回ほどコールして切れた。

「いいのか」

「いいも悪いも、もう遅い」

父さんは小さく相づちを打ってから、言った。

「四日前、隆弘くんの熱は急に上がって、一時は、四十度を越えた。だから少し効き目の強い解熱剤を投与した。その解熱剤はな、世界的に信用されたものなんだ。だから、チームのみんなも、この選択に何の疑問も持たなかった。でも、結果的には……」

父さんはまた、ポケットから煙草を取り出して、二本目を吸いはじめた。

それから数分間、父さんも僕も、何も口にしなかった。父さんにも、もちろん僕にも、心の準備が必要なんだ。

それでも、なかなか口を開こうとしない父さんに僕は、歯痒さを感じられずにはいられなかった。

「昨日の午前一時十二分、隆弘は心停止した。病院側は最初、心電図の故障だと考えていたんだ。意外にこういうことはよくあるからな。でも、気になって色々検査をしてみた。でだ……結論を言うと、隆弘くんの細胞は、四日前から今日の午前中の時点で、おおよそ全体の十六分の一が死滅した。しかも最悪なことに新しい細胞が出来た様子もない。つまり、細胞分裂が行われてない。原因もわからなければ、解決策も見つかっていない。正直、お手上げ状態だ」

僕は、頭を殴られたような、絶望感を感じた。僕が思っているほど、ずっと深刻だ。

「何で?何でだよ。薬のせいなの?それだったら投薬を止めたら、進行だって止められるんじゃないの?」
< 23 / 206 >

この作品をシェア

pagetop