天体観測
「こっちもバカじゃない。それくらいのことはやったさ。それでも死滅は止まらない」

「たった一日しか経っていないじゃないか。まだ結論を出すには早いだろ」

「午前の検査結果、既に昨日の死滅数を上回ってる。これはあくまで予測だが、明日も同じ事が起こる。死滅する速度が速くなってる。それも劇的なほどな」

「どうやっても止められないの?」

「ああ。医学の力じゃどうにもならない」

「でも、父さんは『下手したら、一週間や二週間で命を落とす』って言った。それはつまり、もう少し長く生きれる可能性が、あるってことだよね」

父さんは、少し考えている。僕にはそれが、無駄な希望を持たせるべきなのか迷っているように見えた。

「可能性がなくはない。急激に進行した病がある日を境に治ることはたしかにある。でも、それは一年間、宝くじが当たり続けるくらいの確率だ」

父さんは、黙って俯いて、煙草の味を確かめているようでもあり、自分の無力さを嘆いているようでもあった。

僕はもうすっかり落ち着いていて、頭の中で一年間宝くじが当たり続ける確率を求めてみたけれど、出来るわけもなくて、出来ないってことは、確率はゼロなんだ。

「話してくれてありがとう」

「ああ」

「正直、父さんからこんな話、聞けると思わなかった」

「一応担当医だからな」

「なおさら守秘義務があるよ」

「恵美ちゃんに頼まれたんだ。自分で言うと、泣いてしまうからって」
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