天体観測
「なぁ、君ら、奏が何時に閉まるか知ってる?九時やで?今何時か知ってる?もうすぐ八時やで?最後に、この店何時に閉まるか知ってる?七時半やで?阪神戦見られへんやん」

僕らはHIROのカウンター席に座って、ただ、ぼっーとしていた。お互いに言わなきゃいけないことや、聞かなきゃいけないことがあったけれど、お互いに言いだすタイミングがつかめないでいた。

「なあ、帰っていいかな?いらんよね?この場に。こういうの近所の公園でやってもらいたいな。聞いてる?」

マスターは何だかんだ言って、僕らが来たとき、警備主任に店の延長を頼んでくれていた。つまりマスターのこれは、僕らが話しだすきっかけ作りなのだ。

せっかくなので僕は、マスターに甘えることにした。

「隆弘のこと、父さんから聞いた。もう長くないって。助かる可能性はほぼゼロだって」

「私には『助かるのは一年間宝くじが当たり続けるくらいの確率』って言った。ゼロとは言ってなかった」

恵美は、父さんによく似た抑揚のない声で言った。目の腫れ具合から、昨日はよく眠れなかったことがわかった。

「俺にも同じこと言ったよ」

「司の嘘つき」

「ごめん」

さっきまでそこにあったマスターの姿は、ロビーの方に移っていて、一人でウイスキーか何かを飲んでいた。

「俺さ、正直かなりショックだった。隆弘が死ぬかもしれないってことも昨日恵美が打ち明けてくれなかったこともそうだけど、それ以上に恵美が泣いてた理由、わからなかったことがショックだった。」

「ごめん、昨日言ってもよかってん。でも、個人的に、昨日言っちゃうと負けのような気がした」
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