天体観測
僕らはHIROを後にして、車に向かった。

外はもう完全に闇の支配下にあって、太陽は今、僕らの真下をサンサンと照らしているだろう。

車の中は、蒸し暑く、少しの時間で、大量に汗が出てきた。

僕は、内神崎刀根山線を通って恵美を家まで送っていった。

恵美の家は、近所でも腕がいいと評判の整骨院で、母さんも週に一回は来ているほどだそうだ。

「着いたよ」

「着いたね」

「ちょっと顔、こっちに向けろ」

僕は半ば無理やり恵美の顔をこちらに向けた。

恵美は少しはにかんだ後、真剣な眼差しで僕を見つめ、目を閉じた。

僕は恵美をじっと覗き込んで、言った。

「目を開けろよ。お前の瞳、見えないだろ」

恵美は、ゆっくり目を開けて、さっきとは違う、甘い眼差しを僕に向けた。

「やっぱりまだ目が赤い」

「は?」

「このままじゃ帰せない。俺がおじさんに殺されてもいいのか?」

恵美は俯いて、小刻みに震えている。それはよく漫画やアニメで見る光景に似ていた。

恵美の目が一瞬光を放った。僕はこれはまずいと思って、何か弁解しようとしたが遅すぎて、次の瞬間、僕の顔は痛みを伴いながら、右を向いていた。

「最低最悪」

恵美は、その他罵詈雑言を吐きながら、車を飛び出していった。

ビンタのショックからなかなか立ち直れない僕は、リクライニングを倒し、誰もいない後部座席に向かって「痛い」と言った。

返事は、当たり前のようになかった。
< 31 / 206 >

この作品をシェア

pagetop