天体観測
僕は仕方なく車を走らせて、家に帰った。

家では母さんがテレビを見てケラケラ笑いながら、一人で酒盛りをしていた。

「ただいま」

「お帰り。My Son」

「No,I'm not.」

「本当に冷たい子ね。冗談も言えないなんて」

「冗談くらい言えるさ。言わないだけだ。言わないのは、言いたくないんじゃなくて、関わりたくないから」

母さんはまっすぐ僕を見つめて、それから何故か笑いだした。

「司って、笑っちゃうくらいあの人そっくりね」

ひとしきり笑い終えた後、母さんは一瞬真面目な顔になり、また笑いだした。

「なにがおかしいんだよ」

「だって……これが笑わずにいられる?きっと、司の中にあった母さんの遺伝子は、あの人の遺伝子に全滅させられたんだわ」

「遺伝子は形質を出すために戦わない」

僕は少し腹が立ったので、一旦自分の部屋に戻って、寝巻に着替えた。僕の家でのスタイルだ。

そうしてベッドに寝転がったとき、ふと壁に投げつけた『ティファニーで朝食を』を思いだした。僕は軽く自分に舌打ちして、母さんのいるダイニングへと向かった。

今度の母さんは、酒を飲んではいなかった。でも何かに酔ってはいた。それが自分に対してなのか、別の何かに対してなのか、僕にはわからない。

僕が廊下に落ちていた本を拾い上げて、再び部屋に戻ろうとしたとき、母さんは何か囁いた。

僕は立ち止まり、聞き返す。

「なんて?」

母さんは僕の方を見た。その目は、深く、暗い。

「さっきの……あなたが言った言葉ね、父さんも同じこと言ってた」

「どの件さ」

「冗談は……ってやつ」

「ああ。あれか」

「『関わりたくない』なんて言われると、人間なんて簡単に傷つくわ」

「ごめん」

「そんなところまでそっくりね。反省する気がない謝罪なんて、犬のすることよ」
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