天体観測
外の雨は完全に止んでいた。僕の頭痛もそれ自体があったこと忘れてしまうほど息を潜めている。それでも世界は、僕のことを知らないだろう。

僕らは斎藤病院の前にいる。七時を過ぎても父さんは出てきていない。本当なら父さんを迎えに行くがてら隆弘の見舞いに行きたいところだけれど、村岡がいるのでそれも叶わない。

「足立の親父さんが医者やとはな。だから車みたいなもん買ってもらえるわけや」

「買ってもらったんじゃないって。置いていったんだから」

「同じようなことやろ」

「同じようなことやね」

恵美が笑った。

「たしかに車を買ってもらうっていうのと、置いて帰ったってのは本質的に同義だけど個人的に気にくわない。それじゃあまるで俺が親に媚びてるみたいだ。それ以前に俺と父さんは、戸籍上はもう他人だ」

村岡は固まった表情で僕を見て、しばらく経ったあと「しまった」という表情を浮かべ、花壇の縁に座った。

「すまん」

何処を見ていいかわからないのか、村岡の目は泳いでいた。

「まさかそんなことで、村岡が落ち込むとは思わなかった」

僕が恵美の方を向くと、恵美は頷いた。「ホンマやね」という顔だった。

「そんなの、気にしないよ」

「俺、こういう空気があかんねん。やってもうたって。マジであせる」

村岡は呆然として座っていた。

僕がもう一度「気にするなって」と言ったと同時に、父さんが病院から出てきた。
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