天体観測
「辛気臭いったらありゃしないわね」

母さんの笑いは留まることを知らず、もう笑っているのか泣いているのかさえわからない。

「何がおもしろいんだ?真澄」

父さんは本気でわからない様子だった。かくいう僕も、わからない。

「何がおもしろいって……そうねえ。マイナスとマイナスをかけたらプラスになるってことよ」

「母さん、僕は別にマイナスじゃない。少なくとも二人よりプラスだ」

僕が言うと、母さんの笑いはますます勢いに乗った。

「真澄、笑い過ぎても、人は簡単に死ぬんだ」

会話においては父さんの方が僕より質が悪い。母さんは笑うのをやめて、ほうれん草の味噌汁をすすった。

「あなたってほんとに会話が下手よね。仕事場でもそんな感じなの?」

母さんはかなり呆れた様子だった。

「ああ。人っていうのはそんな簡単に変われるものじゃない」

「たしかにそうだね」

「もう、司まで」

母さんは缶ビールを二本取り出し、一本を父さんに渡した。

ぷしゅっという音と共に、二人はとてもおいしそうにビールを飲んだ。

僕の中で、ある、ありふれた疑問が浮かんできた。それは本当ならもっと前に知っておくべきだったのに、僕は父さんの息子ということだけで、それを知ろうともしなかったことだ。    

僕はそのありふれた疑問を、留めることが出来ないと悟って、感情のおもむくままにすることにした。

「ねえ、何で二人は離婚なんてしたの?」
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