天体観測
結論から言うと、僕は何も知ることが出来なかった。母さんは「大人の事情よ」と言い、父さんは口すら開かなかった。でも先送りにしすぎた僕も悪いのかもしれない。

僕は部屋に戻り、机に向かっていた。恵美に貸す数学のノートをまとめ、以前暑さで断念した世界史の中世までの年表を書き写した。

その時点で、時計は十一時をさしていた。僕は風呂にでも入ろうと思い、部屋から出ると、ダイニングでは二人がソファに並んで座って、『ローマの休日』を観ていた。

「別れた夫婦が見る映画じゃないね」

二人は振り向くことも、返事をすることもなかった。

僕は軽く舌打ちをして当初の予定通り風呂場に向かうことにした。いつもの通り、熱めの湯に肩までつかり、きっちり百数えて、一日の終わりを確かめてから、ダイニングに戻った。

ダイニングでは、二人の観ている映画が、何故か『ザ・ロック』になっていた。この二人がいったい何を考えているか想像するだけで一日が終わってしまいそうだ。
僕はミネラルウォーターをグラスに注ぎ、椅子に座った。

二人はおそらく僕に気付かないまま、凄まじい集中力で映画を観ている。

僕はここにいるのがバカバカしくなってきて、部屋に戻り、ベッドに寝転がった。

そうしていると、睡魔は意外と簡単に迎えに来てくれて、僕は断るのも失礼だと思い、そのまま意識を断った。
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