天体観測
村岡が作ったアイスコーヒーは、ひどい味だった。マスターの作ったものと同じ豆、同じ水を使っているのにこうも味が違うと、作り手に問題があるのは明らかだ。

「まずい」と、村岡の顔を見ながら、僕は言った。

「それに薄い。もう薄いからまずいのか、まずいから薄いのかもわからないよ」

「司。それって大差ある?」

「大ありだよ」

村岡は飲むのをやめて、僕の方を見た。

「作ってやったのに文句言うなや。可愛くないぞ」

「最初からうまいコーヒーを入れてくれてたら、こんなこと言わないよ」

しばらく沈黙が流れたが、村岡は言葉を出さなかった。僕は黙ってコーヒーを飲みなおした。僕にだってそれ位の教養みたいなものはある。

しばらくすると、マスターはひょっこり帰ってきいた。僕らが眠っていたのか、ただ意識がなかったかはわからないけれど、気が付いたらマスターはカウンターの中に居て、煙草を吹かしていた。

「寝てたかい?」

僕はマスターに尋ねてみた。

「いや、心ここにあらずの状態やったから、あえて声かけへんかった。コーヒーでも飲むか?」

僕は黙って頷いた。喉には村岡の入れたコーヒーが残っている。
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