HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
久米メンタルクリニックは学校から車で10分と言う距離だ。電車だと2駅ぐらいかな。
ちょうど良い距離だ。
まこの話に寄るとこのクリニックが設立されたのは二年前。
久米が中学二年生のとき。その年、久米の両親は離婚している。
真新しい白い壁が診療内科にふさわしい明るさで、清潔な色を放っていた。
受付の看護士に身分と名を名乗ると、清潔そうなナース服をまとった看護士がすぐに診療室に通してくれた。
事前に尋ねる旨のアポを入れておいてよかった。それとも、まこの力なのか。
同じ医者として、むげにもできないと思っているのかもしれない。
まぁ僕としては助かったわけだが。
「診療時間外ですので、お気になさらず。ごゆっくり」と丁寧な看護士に促され、ドキドキした面持ちで診療室と名のつく部屋に足を踏み入れた。
何せメンタルクリニックなるものがはじめてだから。
まったく無縁と言うわけにはいかなかったけれど、それでも踏み込まなかったのは―――
周りのみんなのお陰かもしれない。
「お待ちしてました。お会いするのは二回目ですね、冬夜の父です」
大きな机の前の立派な肘掛け椅子に座っていた男の人が立ち上がり、手を差し伸べてきた。
僕より少しだけ身長の低い、細身の―――紳士だった。
白衣を着ていなければエリートビジネスマンを思わせる風貌に、ちょっと意外な印象を受けた。
精神科医と聞いたから、もっと難しそうな人を想像していたけど、爽やかで話しやすそうだ。
「こんにちは、冬夜くんの担任をしております神代です。覚えていてくださって光栄です」
そうは言ったののの、僕は彼の風貌をほとんど忘れていた。
最初に挨拶を交わしたのは久米が転校してきたときだ。
そのときは当然ながら白衣なんて着ていなかったし、僕はイチ生徒の久米にどう接すればいいのか彼を目の前にあれこれ考えていたから保護者をゆっくり観察できる余裕がなかった。
結果、久米は僕が身構えるほどの問題児ではなく、優等生な彼は扱いやすかった。
握手を交わして名刺を手渡すと、彼は僕を目の前のゆったりした椅子に座るよう促してくれた。
「それで―――今日は先生が何のご用で?
もしかして、冬夜が何かしでかしましたか?」
ちょっと眉間に寄せた皺だけが神経質そうに見せたが、その顔はやっぱり久米と―――
似ていた。