HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「ああ…いえ!冬夜くんは実に真面目な生徒でして。成績も優秀ですし、問題はありません。ただ……」
「何か気になることでも?」と久米のお父さんが先を促す。
「気になる……と言いますか、一昨日遅い時間帯に彼を街中で見たので気になりまして」
と若干の嘘を交えて答える。
精神科医を前に、僕の考えなんてすべて見透かされているようでドキドキしたけれど、彼はそれに対して何も突っ込んでこなかった。
「冬夜は演劇部にのめりこんでて遅くなることはしばしばありますね」
「僕も部活の帰りなのかと思っていたのですが、このところ文化祭の影響で演劇部も休部しているみたいですし」
まるで告げ口をしているようで、ちょっとだけ居心地が悪く視線を彷徨わせると、
「ほぉ」と彼は興味深そうに頷いて、顎に手を置いた。
「それは初耳でした。息子はあんまり自分のことを話さないので」
「家族間のコミュニケーションはどうですか?」
「まぁ普通と言ったところでしょう。何せあの年頃の男って言うのはそう自分からあれこれ喋るもんでもないし。母親ならまだしも、父親でしょう?
先生も経験がおありじゃないですか?」
逆にそう聞かれ、僕は頭を掻いた。
「はあ、まぁそうでしたね。うちは姉が煩くて、僕が喋らなくても家族内は明るかったです」
なんて思わず漏らしてしまうと、彼は楽しそうにちょっと笑った。
「賑やかなのは結構じゃないですか。先生を見てると、明るくて常識ある家庭でお育ちになったのだとお見受けします」
明るくて常識ある…?それはちょっと自分では分からないけれど、さすが精神科医。
話がうまいし、独特のリズムと音程で緊張していた心がちょっとほぐれていくようだった。