HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「あの、冬夜くんはアルバイトか何かやってるんですか?」
「バイトはしてないはずですよ。息子の楽しみはもっぱら演劇部らしいですからね。ガールフレンドも居ないみたいだし」
「ガールフレンド……」
「失礼。今時の若い人はカノジョと言うべきかな」
久米のお父さんはきさくに笑った。僕もつられて思わず笑う。
「冬夜くんは明るいし、クラスを引っ張っていってくれるムードメーカーでもあります。彼は女生徒に人気ですよ」
「なるほど。そこは私に似たのかな」
お父さんは冗談ぽく笑い、その爽やかな笑顔が46と言う実年齢よりだいぶ若く見えた。
生徒の保護者と言うよりも―――気さくな上司を相手にしているようだ。
このままの流れで、ちょっと深いとこを探りたい。
「あの…さしでがましいようですが、彼のご両親…つまりはお父さんと、彼のお母さんの離婚の理由についてお教えいただけませんか?」
おずおずと聞くと、彼はちょっと表情を強張らせた。
ちょっと踏み込み過ぎた。気を悪くされる前に話題を変えなきゃ…
そう思って口を開くと、
「なるほど、先生は冬夜の行動の理由に、我々の離婚が関係している、とお考えなんですね」
そう聞かれて
「はぁ…まぁ」
と僕は曖昧に答えた。
正直全然そのことは考えてなかったけれど、勘違いしてもらったままだだと話が進めやすい。
「すみません、説明不足でしたね」
「いえいえ」
彼はほがらかに笑い、けれどすぐに表情を引き締めた。
「2年前に―――嫌な出来事がありましてね。
それで妻とは、冬夜の教育方針について色々意見が食い違ってしまって」
と、お父さんは穏やかな笑みを浮かべて答えてくれた。