HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「冬夜くんのご両親が二年前に離婚されて、その後去年の暮れにあなたの奥様がお亡くなりになってますよね…」
「正確には“元”妻ですが」
僕の言葉に彼は嫌な顔をせず、さらりと人の良い笑顔を作った。
「その後、先月まで彼は叔母さん夫婦と一緒に住んでたみたいですけど、何故急にあなたの元へ?」
聞きたかったことがようやく口に出た。かなりの遠まわりをしてしまったが、いきなりぶつけるにはかなりぶしつけだ。
彼は再び顎に手を当て、
「元妻が死んで、冬夜にはずっと私の元へ来るよう言っていたんですよ。私もこの病院を建てたばかりですし、やはり跡継ぎを望んでいましたのでね」
なるほど…この様子じゃ、細君が亡くなる以前から彼は久米を呼び寄せる話し合いをしていたに違いない。
だけど母親は彼を手放さなかった……?
それが母親の死と言う不慮の事故を経て、父親の状況は好転した。
これ幸いと思って、久米を呼び寄せたに違いない。
案外―――この父親も、人の良い笑顔の裏では、相当狡猾なんだろうな……
そう言う意味では、ストレートにあれこれぶつけて探ってくる森本の母親の方がやりやすい気がする。
僕は久米の母親を知らないが、久米はきっとこの父親似に違いない。
あの笑顔の裏で―――何かを考えている。
僕は見えないところでこっそりとため息を吐くと、
「冬夜くんは文化祭実行委員に立候補してくれて、今日も委員の実行委員とかで遅くなるはずです」
と、話題を変え無理やり笑顔を作った。
「文化祭実行委員ですか。あいつも良く分からないやつだな。いや、昔はあまり目立つことを好まない地味な子だったんですがね、
最近、学校に行くと楽しそうだし、前より明るくなった気がするんです」
「そうですか。それは良かった」
「ここだけの話、あいつ好きな子ができたんじゃないかと思ってるんですがね」
お父さんは声を潜めて悪戯っぽく笑った。