HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
根岸は怯えた表情で僕を見上げ、今にも逃げ出したいと言った感じでドアの方を目配せした。
―――これ以上は…無理か…
「いいか。今日は見過ごす。君は喫煙している分けでもなかったし。ただし、次見つけた場合、彼らの名前を教えてもらうからな」
僕が腕を離すと、根岸は急に力が抜けたように肩を落とした。
それでも慌てて、逃げるように走り去っていく。
その後ろ姿を見て―――僕はちょっと彼が心配になった。
根岸は苛められてない、と言ったがそれに近いものがある気がした。
先に逃げていった連中はいかにも気の弱い彼のことを利用することに慣れてる感じであったし、ああやって見張りに立たせるのもはじめてではないだろう。
「―――…今の…2Aの根岸だよ」
根岸が完全に見えなくなったところで、雅が給水タンクの方から現れた。
「……A組…?」
「そ。実行委員で一緒になった。逃げていったヤツらもたぶんA組だ」
ブレザーに両手を突っ込み、雅がそっけなく言う。
A組…成績優秀な生徒たちが集まったいわゆるエリートクラスと言うわけだが…
その彼らが……?
いや、確かにまこの言うとおりいかにも優等生っていう生徒の方が何をしているのか分からない。
頭が良い分、姑息でワル知恵も働くってわけか……
「気弱そうだし、利用されてるんじゃない?」
「そうだな。そんな感じだ」
僕はまだ根岸の立ち去って行った階段の奥を眺めていると、雅が僕の肩に手を置いた。
「水月、あたしは生徒のことを何とかしたいって言うそうゆう正義感が強い水月は好きだけど、他クラスのことに首を突っ込むのは、余計なトラブルを招くだけだよ。
特に今はA組と確執があるし、余計なことを考えない方がいいよ」
言われて僕は思わず苦笑い。
確かに、その通りだ。
今、石原先生に相談を持ちかけても相手にされないだろうし、仮に考えてくれても根岸を利用している連中に火に油を注ぐだけだ。
苛め―――ではないにしろ、僕の行動がそれを招き起こすこともあり得る。
でも―――ただ黙って傍観するだけなのは、教師としてどうなのだろう。