HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「ま、帰ったんなら明日にでも渡しておいてくれよ。でも何でこんなに生徒が残ってるんだ?」
まこは、まだ文化祭の準備で賑わっている教室内を見て目を細める。
「文化祭の出し物の準備だよ」
「ふーん。先生ってのも大変なもんだな。そいやぁ鬼頭いねぇじゃん。あいつサボり?」
なんて言ってまこはキョロキョロ。
「いや…さっきまで居たんだけど、帰ってった」
まるで久米を追いかけるように。
「楠の姿もねぇな。なぁんか嫌なメンツが揃って居ないとなると、逆に気味悪いよな~」
なんてまこは他人事のように言う。
「見て!保健室のセンセー♪神代先生と並んでると絵になる~」
「ホントだ~☆やっぱイケメン同士が並んでると、目の保養になるよね♪」
なんて方々からひそひそ女生徒たちの喋り声が聞こえてきて、まこは顔をしかめた。
「ここは賑やかだな。俺はさっさと退散するよ。んじゃね~」
まこはまるで逃げるようにその場を立ち去り、僕は手の中にある生徒手帳に目を落とした。
―――
――
別に…今日届けなければいけないわけじゃない。
財布とかケータイなんかの貴重品でもあるまいし。
だけど僕は、あのあと森本がちゃんと家に帰ったのか心配だった。
体調崩したのだって、きっと勉強や家庭環境からくるストレスに違いないだろうし。
そしてそれ以上に気になるのが―――
『森本を迂闊に近づけるな。厄介なことになりそうだ』
まこのあの言葉。
どう厄介なのか―――
結局僕は、森本の様子を聞くためと―――それと、姉妹間に走った亀裂のことを、もう少し詳しく知りたかった。
それが多少なりとも、彼女の体調やストレスの原因に影響している気がしたんだ。
深く首を突っ込むな、とまこは言ったけれど放っておくわけにもいかない。
何といっても森本は僕の生徒であるわけだし。
そう考えながら家に帰り、その後ゆずを連れて再び車に乗り込んだ。
向かう先は―――
森本の家の近くの公園。以前、森本のお姉さんの結香さんと話した公園だ。