HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
前回と同じ、僕はコインパーキングに車を停め、公園までの道のりを歩いている最中だった。
見慣れない風景に、ゆずはきょろきょろ。ちょっと怖がっている節もあり、僕はゆずを抱き上げたまま公園に向かった。
公園に行ったって会えるとは限らない。前会ったのははこの時間だったから、なんて単純な理由だ。
連絡して出てきてもらうって言う手もあったけれど、あのとき「連絡して」と言う言葉は社交辞令かもしれないし。
急に連絡したら迷惑な気がした。
だけど会えなかったら、意味ないよなぁ。
なんて思いながら歩いていると、
「結香!待てよ!」と曲がり角の奥から男の怒鳴る声が聞こえてきた。
びっくりして思わず立ち止まると、
「離してよ!あんたと話すことなんてもうない!!」と結香さんが怒鳴り返す声も聞こえた。
すぐ近くでワンワン吠える犬の声も聞こえる。
激しく言い合いをしながら、二人が曲がり角から現れて僕は目を開いた。
「話を聞いてくれよ!エミナのこと、本当に悪いと思ってる。だけど好きなのはお前だけなんだよ!」
「そんなこと信じられないよ!大体彼女の妹に手を出すなんて最低じゃない!!」
僕は一瞬息をすることすら忘れた。
まるで時が止まったように―――その場に一人(と一匹)佇む。
僕の視線の先に、若い男女―――女の子の方は、結香さんが言い合いをしている。
結香さんと同じ年代の男が彼女の腕を引っ張っているが、結香さんはその腕を引き剥がそうと必死だ。
「お前が……お前がヤらしてくれないからだろ!」
モカが結香さんの足元で吠えていて、その声に反応し、僕の腕の中のゆずもワン!と短く吠えた。
その声で結香さんが振り返り、僕を見ると
「せんせい……」
と消え入りそうな声で僕を呼んだ。