HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
僕は彼らの元まで歩いていくと、結香さんの腕を掴んでいる男の手首を掴んだ。
「彼女困ってるじゃないか。離しなさい。第一こんな場所で言い合いをするような内容じゃないだろ?」
僕が声を低めて男を睨むと、男はそれ以上に剣のある視線で僕を睨みあげてきた。
「なんだよ、あんた。部外者は引っ込んでろよ」
「僕は部外者かもしれないが、女性に乱暴は良くない。離しなさい」
もう一度言って僕が掴んだ手に力を入れると、男はちょっとだけたじろいで結香さんを掴む手の力を緩めたようだ。
結香さんがその隙をついて腕の拘束から逃れると、慌てて僕の後ろに隠れた。
「この人は部外者じゃない。あたしの……彼氏だから」
震える手で僕の腕にぎゅっと掴まると、結香さんは弱々しく呟いた。
驚いて僕が彼女を見下ろすと、結香さんの大きな目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
モカが心配そうに僕の足元に擦り寄ってきて、僕はもう一度男を睨んだ。
「そう言うことだ。これ以上彼女に付き纏うな。話し合いをしたければ、もう少し冷静になりなさい」
僕が乱暴に手を離すと、反動で男がわずかによろけて後ずさった。
その自分の姿がかっこわるいと気付いたのか、男は小さく舌打ちして足音も荒く立ち去っていった。
――――
――
「……ごめんなさい…、彼氏だなんて言って…」
例の公園で、前と同じようにベンチに並んで腰掛けると、結香さんは弱々しく頭を下げた。
声が震えていて、今にも泣き出しそうに聞こえた。
「いや。あの場ではそれが一番効果的だったんじゃないかな」
僕が笑うと彼女もほっとしたように、頬を緩めた。