HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



僕の腕の中でまだ抱きかかえられたままのゆずを見て、結香さんは笑顔を浮かべた。


さっきの余韻か、その表情は多少ぎこちないものの、元来が犬好きらしい。


手馴れた動作でゆずの頭をちょっと撫でると、ゆずは心地よさそうに目を細めた。


「可愛い。お名前は?」とゆずに問いかけると、それに応えるようにゆずが小さくワンと鳴いた。


「神代 ゆずです」


僕が答えると、結香さんはくすくす笑ってモカのリードを引き寄せる。


「森本 モカです。こっちもヨロシクね」


僕はゆずを地面に下ろすと、恥ずかしいのか最初は僕の足元に身を寄せていたゆずだけど、反対に積極的(?)なモカがくんくん鼻をひくつかせてゆずの周りをウロウロ。


二匹が打ち解けた頃合を見計らって、僕は結香さんを見た。


今日は赤い小花模様をあしらった少し長めのスカートにウェスタンブーツ、そしてグレーのパーカーを着ている。


「…さっきの…」


言いかけると、結香さんが顔を上げた。


「…びっくりしさせてごめんなさい。さっきの元彼なの。やり直そうってしつこくて……」


「彼がえっと…例の…?」


言いにくそうに言葉を濁すと、


「エミナに手を出した最低野郎だよ」


結香さんは僅かに目を伏せて、地面を睨んでいた。


前も見た覚えのある表情に、彼女の怒りや悲しみが全部凝縮されているようだった。


先ほどの会話を聞いて―――





やはり森本が結香さんの彼氏を奪ったのは―――事実のようだ。







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