HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
結香さんはおもしろくなさそうにウェスタンブーツの先で足元に転がった小石を蹴り、
「……でも、盗られてもしかたなかったのかも…さっき聞いてたでしょ?あたしが……させなかったから」
僅かに赤くなった顔を隠すように、結香さんは顔を背ける。
僕は深いため息を吐いた。
「そんなことで他になびくような男じゃ、本当の君を好きだったわけじゃないよ。
やめて正解だと思うけど?」
僕の言葉に結香さんはびっくりしたようにこちらを向いた。
その大きな目に、先ほどと同じ…涙の粒が浮かんでいた。
「随分とはっきり言うんだね。もっとやんわりした人だと思ったけど」
僕は肩をすくめた。
「そう?だって正直な気持ちだから」
もっと複雑で、もっと深い感情が絡まっているのなら、僕は何も知ることができないし、何も言えない。
だけどこうまではっきりと分かりきっていることを、遠まわしに言う必要もない。
「正直ついでに聞くけど、……男の人ってさ、やっぱそうゆうのしたがるじゃん?それに応えられない女ってやっぱ面倒なの?」
探るように目を上げてきて、僕は唇を結んだ。
だけど深く考えることでもない。
「まぁ目的によりけりだけど。僕はそうゆう関係を望まないからね。願うは愛する人と、だ。
だけどその人がしたくないと言えば、強要することもないし、それをいやと思うこともない」
僕の言葉を聞き頷きながら、結香さんはまばたきをした。
まばたきをしたときに、大き目から堪えていた涙が零れ落ちる。
その雫が、夜の街灯に反射して―――きらきらと輝いて、きれいだった。