HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



コインパーキングの前で別れるときに、僕は思い出したようにポケットから森本の生徒手帳を取り出した。


「あ、そうそう。これ…森本の生徒手帳。彼女に渡しておいてくれないかな」


僕が生徒手帳を見せると、結ちゃんは目を細めて、だけど結局その生徒手帳は受け取ってもらえなかった。


「先生から渡して?あたしが先生と会ってたってあの子が知ると、また問題起きそうだから」


「あ、そっか…ごめん、何か軽率だったね」


慌てて生徒手帳を仕舞い入れると、


「ううん。軽率なんかじゃないよ。でも……」


ちょっと笑った頷いたが、結ちゃんはすぐに表情を引き締めた。



「先生あの子に関わらない方がいいよ。分かったでしょ?先生の前では真面目なフリしてるけど、あの子がしたたかだってこと」



まっすぐに…だけどその瞳は冷ややかで暗い渦を描いている。



「エミナは姉であるあたしの彼氏を平気で奪える女なんだよ。先生、彼女とラブラブっぽいけど、気をつけた方がいいよ」





これは忠告。





そう言い置いて、結ちゃんはくるりと踵を返した。


まただ―――…


また、森本に気を付けろと言う。


一体森本が何を企んでいると言うんだ―――


僕は、また知らないところで人の恨みをかっているのだろうか―――


そうじゃないと願いたいけれど、“恨み”と言うほど明確で、それでいて根が深い―――それ以上のものは果たしてあるのだろうか。


人間を突き動かすのは愛ではなく、執念のような憎しみ。




『大好きだよ』




雅の言葉をふと思い出す。





恨みが愛に変わることもあるし――――……考えたくないけれど、またその反対も有り得る。


まこ、が姉さんに抱いた気持ちも後者だ。




深い憎しみと、深い愛情は紙一重。





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