HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
これぐらいじゃ死なない。
片手絞(カタテジメ)を応用したもので、器官をふさいでせいぜい呼吸困難を起こす程度だ。
失神しても、命を落とす程でもない。
それが分かりきっているというのもあるが、何より怒り猛った感情を僕自身制御できないでいた。
「離しなさい!森本」僕が片手で森本の腕を払おうとしたが、
「離しません!お願いだからっ!!やめて!」
彼女の悲痛なまでの叫び声を耳に入れたが、僕の久米を絞める腕に込めた力は緩まることがなかった。
「―――っ!」
森本は拉致が明かないとふんだのか、一旦諦めるように階段下を振り返り、慌てて降りていった。
その後ろ姿を見やりながら、久米はこんな状態でも無理やり口の端に笑顔を浮かべている。
「―――やっと……
やっと、本性現しましたね。
……知ってましたよ。俺、先生が空手の有段者だって言うこと…
でも……ファム・ファタルには気をつけてください」
苦しそうに喘ぎながら息継ぎの合間に久米が何とか言葉を発する。
ファム・ファタル…何なんだ、それは―――…?
「か、神代先生!何やってるんですか!」
すぐに和田先生の怒鳴り声とも悲鳴ともつかない声が背後から聞こえ、どうやら森本が和田先生を呼んできたことを理解できた。
「その手を離してください!」
和田先生が僕の背後から僕の手を捉え、僕はその手も乱暴に払った。
「先生!やめて!」
森本も反対側から僕の腕に縋り、でも最後の理性が森本を乱暴に払うことを押さえた。